大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)2008号 判決

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人

河村武信

被控訴人

甲野花子

右訴訟代理人

佐々木静子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も被控訴人の民法七七〇条一項五号に基づく離婚請求及び離婚による慰藉料請求は二〇〇万円の限度において、何れも正当として認容し、未成年の子三名の親権者を被控訴人と定めるのが相当であると判断する。その理由は次の点を付加、訂正するほか、原判決理由の認定、判断と同一であるから、これを引用する。

1  〈省略〉

2  控訴人は、本件婚姻を継続し難い重大な事由は存在しない旨主張するが、前記認定の事実(原判決理由三の1ないし7)によると、控訴人方が従来営んで来たカステラ製造業が不振となつて昭和四九年七月廃業して以来、多額の債務を拘えて控訴人方(控訴人夫婦と子供三人及び控訴人の母親の六人家族)の生活が次第に苦しくなつて行つたのに、控訴人は、自分の性格が商売に向かないと称して公設市場内に有した菓子小売店の経営を昭和五一年一〇月以降被控訴人に委せきりにして、自ら窮状を打開しようとする努力を払わなかつたのであり、このため被控訴人は三人の幼児をかかえて菓子の仕入、支払、販売の業務に当るほか、実父一太郎(尚同人は老令である上戦傷による両下肢麻痺の身体障害者であることは〈証拠〉によつて認められる。)の援助を得て家計のやりくりや債務の支払いに一方ならぬ苦心を重ねて来たが、控訴人はこれらの苦労を一向に理解しようとせず、昭和五二年三、四月頃被控訴人より右菓子小売店の経営に当つてくれるよう懇請されても、無気力な態度に終始してこれに応じようとしなかつたばかりでなく、同年一二月頃腰痛を理由に当時勤めていた肥料会社を退職し、それ以来職に就いていないし、又その頃当時の自宅を代金三二〇〇万円で売却しこの中の一六〇〇万円で代替家屋を購入した残余の一六〇〇万円を有しながら、これを右一太郎から与えられた援助の返済に当てようとしなかつたことは勿論、別居中の被控訴人母子の生活費にすら当てようとしなかつたのであつて、以上の如き無気力且自己中心的で妻の苦労を顧みない控訴人の態度により、被控訴人が控訴人に対する受情を全く喪失するに至つたものであつて、本件婚姻は既に破綻していることは明らかである。尚控訴人は、被控訴人が離婚を求める真の理由は、控訴人が兄妹間に生れた子であると云う根拠のない噂を真に受けているからであると主張するが、右主張に添う当審における控訴本人の供述はにわかに措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  控訴人は、仮に婚姻を継続し難い事由が存在するとしても、控訴人が被控訴人の権利を侵害する不法行為をしたものではない旨主張する。成程控訴人は被控訴人の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為をしたものではないけれども、離婚原因たる個々の行為がたとえそれ自体としては不法行為を構成するに足らない場合であつても、これらの行為によつて婚姻関係を破綻に導き、相手方をして離婚のやむなきに至らしめた場合には、その行為者は相手方に対して不法行為の責任を負うべきものと解されるところ(最高裁判所昭和三一年二月二一日判決集一〇巻二号一二四頁参照)、控訴人は前記一連の行為によつて被控訴人との婚姻関係を破綻に導き、被控訴人をして離婚のやむなきに至らしめたものであるから、被控訴人に対して不法行為による損害賠償義務を負うことは明らかである。

二そうすると、原判決は正当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文の通り判決する。

(大野千里 林義一 稲垣喬)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例